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七一〇年へ、二〇一〇年へ、私・モ

アヲニヨシ 奈良ノ家ニハ
   イツマデモ イツマデモ
   私・モ通イ続ケマス!
   ヨモヤ忘レタナンテ・・・
   思ワナイデクダサイマシナ――
(『万葉集』巻一の八〇、筆者新訳)

以下は、NHKの人気番組プロジェクトXの声優田口トモロヲさんの声で読んでもらいたい。「ついにそのプロジェクトは始まった。巨大な都の引越しである。時に七一〇年、都は藤原から、奈良の地へと遷(うつ)る。建物の移動は、なかでも難題であった。柱も引き抜いて、すべて建物は解体。そのまま移築するという空前絶後プロジェクトである。男たちは立ち上がった。そして、女たちも立ち上がった・・・」と。
  平城遷都、それは古代における一大イベントであった。それは、新しい時代がやって来ることを、視覚化する役割を持っていたことだろう。だから、宮が遷ることは、一抹の淋しさも漂うのである。志貴皇子の「采女の 袖吹きかへす 明日香風 京を遠み いたづらに吹く」(巻一の五一)は、都が明日香から藤原へ遷った淋しさを歌ったものである。時に、それは六九四年のことであった。
  しかし、七一〇年の平城遷都は、藤原遷都とは規模が違う。まず、遷る建物の規模が桁外れに大きい。次に移動距離は、数十倍。では、どのようにして、建物を移築したのか? それは、解体して、泊瀬(はつせ)川にまず流し、そして佐保(さほ)川に流して、移築したのである。そのプロジェクトの苦労を述べ、偉業を讃える歌が、『万葉集』に収載されているのである(巻一の七九、八〇)。人びとは寒さに凍えながら、都を移動した。そして、移築された新宮殿を見た感慨を述べたのが、冒頭に掲げた八〇番の反歌である。
  だから、私は思う・・・プロジェクトは人であると。来年度から、平城遷都一三〇〇年のプロジェクトを担う人材を養成する「二〇一〇年塾」が開催されるという。その意気やよし。また、この一三〇〇年の記念事業は、明日香や藤原をはじめとした大和の古代の都を含みこんだ構想になっている。本年、明日香京ルネッサンスはその口火を切った。その意気やよし。
大和の平城京、日本の平城京、燦然たる国際交流の歴史を持つ平城京。そういう平城京の一三〇〇年にふさわしい記念事業を、私・も楽しみにしている。一三〇〇年前の人びとの声を伝える『万葉集』。二〇一〇年、奈良から、どんな歌声が聞こえてくるのか・・・私・もその歌を歌いたい。

青丹吉 寧樂乃家尓者 
万代尓 
吾・母将通 
忘跡念勿   (『万葉集』巻一の八〇)

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