対談: 上野誠、寺西洋氏(小学館関西支社長)

―― 最近、キトラ古墳や蘇我馬子邸宅跡の発掘、天皇正殿の発掘など飛鳥のニュースが、次々に飛び込んできますね。
上野 そうです。飛鳥のパズルが埋まってきたんですよ。僕ら万葉学者も、うかうかしていられない。
―― ようやく、新著も校了ですね。おめでとうございます。
上野 ありがとうございます。やはり、原稿を書き上げた「脱稿」の時、校正が終わる「校了」のときはうれしいもんです。また、出来上がると、これがまたうれしい。
―― 『万葉体感紀行』というタイトルがおもしろいですね。
上野 僕のモットーは、「体感する万葉」でしょ。本を読んで歩きたくなるように書きました。本人も楽しんで、書きました。
―― 東京の編集部からは、今までになかった入門書だということを聞きましたが・・・。
上野 『万葉集』を体感できるように、紙上で飛鳥・藤原・奈良の万葉の都めぐりをするんです。『万葉集』の時代は遷都の時代、都の移り変わりというところを切り口にして、時代と生活を知り、そして歌を味わってもらいます。
―― なるほど、「万葉の都」ということが切り口なんですね。
上野 だから、近年の発掘の成果というものを、存分に取り入れたんです。考古学や歴史学の成果がこれほどふんだんに取り入れられた本は、今までなかったと思います。
―― ということは、万葉フアンはもとより、考古学や古代史のフアンにも楽しんでもらえますね。
上野 めくるだけでも、発掘成果の今が一目瞭然です。そこから、浮かびあがってくる生活。さらには生活の機微を歌う万葉歌を重ねて理解してもらいたいんですよ。
―― 先生が今まで追究されていた世界ですね。
上野 だから、現在藤原京の発掘の最前線にいる奈良文化財研究所の市大樹さんとの対談も入れているんですよ。
―― 考古学者と万葉学者の対談ですね。
上野 そうです。そういうこともあって、今回の本では、写真とともに地図にも最新のものを使うように努力しました。考古学の成果は日進月歩ですからね。遺跡や万葉故地がいっぱい書き込まれた地図が満載されています。この本を持って歩けば、何の変哲もない小路が『万葉集』のテーマ・パークになりますよ。
―― でも、それは作り物のテーマパークじゃないでしょ。
上野 少なくとも、1300年前からのテーマ・パークかな。
―― ずいぶん、斬新な本になるようですが、ご苦労も多かったでしょう。
上野 わかりやすい記述のためにいろいろと書き直しをしました。しかし、大変だったのは私だけじゃない。図版や写真の許可、さらには地図作成の手配など、担当の編集者の土肥元子さんは、東京と奈良で難行苦行の日々を過ごされておられましたよ。しかし、驚いたのは土肥さんは、実に仕事が早い! 脱帽しました。
―― 身内をほめちゃいけませんが、編集者が汗をかかないとよい本はできせん。我が社の編集者をほめていただき、ありがとうございます。
上野 たしかに、私の思いというものを読者に伝えてもらうには、編集者、デザイナーさん、問屋さん、物流の皆さん、書店の皆さん・・・いろいろな人のご苦労がある、ということがわかりました。
―― 最後に、読者の皆さんに、先生からメッセージを。
上野 処女作の研究書『古代日本の文芸空間』や、新書版の『万葉びとの生活空間』の世界を展開させ、よりビジュアルにしたのが『万葉体感紀行』です。予備知識はいりません。必要なのは好奇心だけです。理解するのではなく、感じてもらう体感紀行の旅に参加してください。是非、あなたも!
―― 本日は、ご多忙のなか、ありがとうございました。
上野 いえいえ、こちらこそ。少しホッとした気分の時で、放談しました。ありがとうございました。 |