16
声の文化

カラオケの楽しみというのは、「あの人がこんな曲を!」という意外性にある。だから、あまり旨すぎると、おもしろくない。コンパでいちばん受けるのは、かたぶつの老教授が最新のヒット・チャートの曲を歌ったときのようなミスマッチの時である。それは、まさに声の文化ということができる。つまり、カラオケの楽しみは、知っている人が、その曲をどのように声に出して歌うかというところにある。

  それは、万葉時代の宴歌(うたげうた)の楽しみ方と似ている。次々に、自らのノドで歌を披露して、宴を盛り上げてゆくのが、万葉流の宴会である。五七五七七のリズムにのせて、歌を歌いついでゆくのである。つまり同じリズムで歌い手がどのようなメッセージを、宴会の出席者に伝えるのか、ということを楽しむのである。「ボケ」あり「ツッコミ」あり、笑いありという七世紀・八世紀の宴会の様子を現代に伝えてくれるのが、『万葉集』なのである。とすれば、『万葉集』は、当時流行の宴会カラオケ用、歌詞集とみることもできるだろう。また、それは一定のリズムを保ちながら、即興で今の心情を語るラップにも近い質をもった文化ともいえるだろう。

  世界の文化小国日本が、世界に発信した誇るべき文化であるカラオケも、万葉宴席歌の文化の延長にあるといえば、我田引水となるだろうか。そこで、提案だがカラオケの歌詞を少しかえて歌い、遊んではどうだろうか。わたしの十八番は、村田英雄の「王将」だが、「愚痴も言わずに女房の小春・・・」を、自分の女房の名前を入れて歌ったりする。そんな替え歌の文化の復活を万葉研究の立場から提案したい。そうすればカラオケで、もう少し他人の歌を聞くようになるだろう。

HOMEデジカメ日記エッセイランド来てください、聴いてください読んでくださいプロフィール奈良大学受講生のページ授業内容の公開
マンガ研究業績おたより過去の活動サイトマップリンク集
無断転載、引用を禁止します。(C)MAKOTO UENO OFFICE. www.manyou.jp produced by U's tec