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大学教授の通信簿

ゼミの学生に引っ越しの手伝いを頼んで、慌てたことがあった。自分の大学時代の成績表が出できたからである。「意外に、優が多いんですね」と女子学生に言われて、「意外に」の解釈に苦しんだ思い出がある。ところで、大学の教員の研究に対する力量というものは、同じ分野ならだいたい「言わずもがな」でわかってしまう。とくに同世代の場合は、互いに意識していることが多い。簡単に言えば、論文の数と掲載誌のグレードでお互いの力量を測りあっているのである。

  グレードの高い雑誌は、レフリーがいて、高い質の論文しか掲載されない。つまり、そういった権威ある雑誌の審査を通過して何本論文を活字にしているかで、評価が決まってしまうのである。だから、「あいつには逆立ちしてもかなわん」と思うこともあるし、「ちょっと、俺のほうがましかな」とささやかな優越感に浸るなど、いろいろ心のなかでは思っている。そういった論文をあまり書かずに、マスコミに登場していると、タレント教授とギョウカイ人に揶揄されることになる。

  富山県高岡市の万葉歴史館は、各研究者ごとに論文をファイルして、整理している。しかも、それが研究者ごとに図書室に並べられて、自由に閲覧できるのである。見るべき人が見ると、全国の研究者の成績表が展示されているようなものである。まず、論文を書いていないと、論文が収められている箱が小さい。だから、この図書室を訪れるのには勇気がいる。また、わかる人が見ると、教授になったとたんにさぼって論文を書かなくなった人も、一目瞭然となってしまう。

  と思っていたら、ゼミの学生が、「先生の箱見てきましたよ」と一言・・・身の毛もよだつ思いであった。

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