一昨年、実母が句集を出した（上野繁子著『句集　日々新たなる』、天満書房）。句集は、家族の歩みを俳句に託した「私小説」仕立てになっている。息子が母親の句集を批評するのもおこがましいが、この人の持味は、生活感ある句にスパイスのようにきかされたエスプリだと思いつつ、読了した。
　 もちろん、筆者もスナップ写真のごとく登場していて、思わず笑ってしまった。

　わが殻を破りたき日のセーター赤
　
着るものはすべて母親が買っていた中学生の頃。ちょっと「色気」が出てきて、自分の見立てでセーターを買った日のことを思い出した。セーターは、その後肥って着ることができなくなり、処分されたが、この句は残っている。なんだ、おふくろさんよ、そんな句作ってたの・・・と、苦笑した。
　 反対に、うるさい読者となるであろう筆者を憚って、収載しなかった句もあるようである。偏差値社会に苦しんで、やっと東京の私大に滑り込んだ私は、福岡から上京した。そんなある日、とある新聞の俳句の欄が目にとまったのである。

　一流に少し外れて入学す

なかなかいい句だなぁー・・・と思いつつ、うどんをすすっていたのだが、思わず吹き出してしまった。作者のところを見ると「福岡　上野繁子」とあったのである。
　 そういえば、第一志望の高校に不合格になった日の母の「迷言」を思い出した。「学食も無いような高校に入学しなくてよかった。弁当が大変だ」と。さすが、わが母である。