このページは、「小さな恋の万葉集」に発表した訳文をかかげたページです

恋歌-14
 

恋ってむなしさを知ることでもあるよね。

わたしはあなたを待つ
恋い慕いながら待つ
――あっ、簾が動いた
――でも、それは秋風だった

君待つと
我(あ)が恋ひ居(を)れば
我が屋戸(やど)の
簾(すだれ)動かし
秋の風吹く
(額田王 巻四の四八八)

額田王の名歌の一つ。よく、美女といわれるが、それを示
す史料はない。題詞によれば、天智天皇を慕って作った歌と
いう。うまさは感じられないが、不思議な魅力のある歌であ
る(それこそ、ほんとうにうまいのかもしれないが・・・)。
それは、待つ女の切なる願いが凝縮された歌だからであろう。
やはり、風だったのかと、いうところに思いの深さがある。

何いってんのよ
風だけでも恋しがっているあなたがうらやましいわ・・・
風だけでも
来ると待っているのなら
何を嘆く必要があるのかしら・・・
待つ人がいないわたしはもっとつらいわ

風をだに
恋(こ)ふるはともし
風をだに
来(こ)むとし待(ま)たば
何か嘆(なげ)かむ
(鏡王女 巻四の四八九)

>>解説
額田王の歌に答えた鏡王女(かがみのおほきみ)の歌。王女は額田王の姉であるとも考えられている人物で、歌からはその親密度がうかがえる。「何いってんのよ」は鏡王女の気持
ちを代弁したつもりである。待つ苦しみ、待つ人がいない苦しみ、それをめぐる女どうしの飾らない会話が、千三百年の時を経て、蘇る。


 
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