このページは、「小さな恋の万葉集」に発表した訳文をかかげたページです

恋歌-15
 

ほんとはいやみなんて言わないほうがいいんだけど、つい。

雨が降ると出不精になる彼氏
いつものことなんだけど・・・
夕べの雨に懲りて
今日もご無沙汰なんでしょうねぇ――
今日は来てくれないよねぇ――

雨(あま)つつみ
常(つね)する君は
ひさかたの
昨夜(きぞのよ)の雨に
懲(こ)りにけむかも
(大伴女郎(おほとものいらつめ) 巻四の五一九)

「しょがないわね、あなたという人は・・・」という声が
聞こえてきそうな歌。つまり、女は男の出不精を知り尽くし
ているのである。長く連れ添った夫のことを、妻が「あの人
は、そういう人ですから」と半ばあきらめつついう一見客観
的口調か。雨が降ったら来ないでは、いやみの一つをいわれ
てもしょうがない。

だったら
雨でも降らないかなぁー
そうすりゃ 出不精の彼氏と・・・
その日はいっしょにお楽しみ!

ひさかたの
雨(あめ)も降(ふ)らぬか
雨(あま)つつみ
君にたぐひて
この日暮(ひくら)らさむ
(作者未詳 巻四の六〇九)

>>解説
題詞によれば、前の歌に同情した人物が、答えて読んだ歌。雨が嫌いな彼氏なら、雨の日に家で捕まえときゃ、デートできるんじゃない、というもの。つまり、彼氏が女の家に着いたあとから、雨が降り出せばしめたもの・・・という意味である。「なぐさめ」とも「ちゃかし」ともつかぬ歌である。


 
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