苦しくたって、生きてゆくしかないよね。
おまえのために
命だけは残して・・・
俺は生きてゆく
思いは乱れて
死ぬべき命を――
妹(いも)がため
命残(いのちのこ)せり
刈(か)り薦(こも)の
思ひ乱(みだ)れて
死ぬべきものを
(作者未詳 巻十一の二七六四)
>>解説
いったんは、死すら考えた男の歌。しかし、男はそれをとどまった。けれども、死の淵でさまよっていた時と状況は今も変わっていない。そこで、男はふたたび決断を下したのであった。自らが死ねば、いちばん苦しむのは、恋人である。ならば「命残せり」と。たぶん、死まで考えるということは、禁断の恋なのであろう。でも、男は、生きてゆくとあらためて決断したのである。 |