このページは、「小さな恋の万葉集」に発表した訳文をかかげたページです

恋歌-57
 

男の人って、恩着せがましいことあるよね、下心ありありで。

女から男への問い
雨が降っているのに
わたしのおうちの前に・・・
傘もささずに
やって来たのは、いったい誰?

ひさかたの
雨の降る日を
我(わ)が門(かど)に
蓑笠着(みのかさき)ずて
来(け)る人や誰(たれ)
(作者未詳 巻十二の三一二五)

男から女への答え
巻向(まきむく)のね
穴師(あなし)の山にね
雲がかかってね
雨は降ってきたけど・・・
――濡れながら来たよ、俺っちは!

巻向(まきむく)の
穴師(あなし)の山に
雲居(くもゐ)つつ
雨は降れども
濡(ぬ)れつつぞ来(こ)し
(作者未詳 巻十二の三一二六)

>>解説
これも、巻十二の問答歌の一つ。巻向の穴師は、現在の奈良県桜井市にあたる。三輪山山麓のいわゆる山辺道(やまのべ)の一角である。女は「濡れながら門口に立つ人はいったい誰なの?」と呼びかける。対して、男は「濡れながらも来たよ」と答えている。おそらく、二人は恋人どうしなのであろう。男の恩着せがましさは、甘えたい心理の表れか。


 
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